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button-only@2x 「深く考える力」は週末に伸びる

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頭と体をフル回転させたあとには、質のよい睡眠が不可欠であるように、オンタイムを精力的にこなしたあとには、充実したオフタイムをもつことが大切である。

あるテレビコマーシャルに「大統領のように働いて、王様のように遊ぶ」というせりふがあったが、私はこれがけっこう気に入った。オンライムは分刻み、秒刻みのスケジュールを精力的にこなし、オフタイムは仕事も時間も忘れて贅沢に優雅に遊ぶ。仕事と遊びで違う人間になるところがポイントである。

私が10も20もの「顔」をつかいこなせる理由

自分のことで恐縮だが、私の名刺には全部で五つ肩書印刷されている。日本精神病院協会名誉会長、精神神経科斎藤病院名誉院長、アルコール健康医学協会会長、日本旅行作家協会会長、日本ペンクラブ理事、この五つだ。これ以外にも団体の理事か評議員とか、某県の観光アカデミーの学長とか、いろいろとある。これらのスケジュールを消化するうちに、一日、一週間はあっという間に過ぎてしまう。

他方、プライベートでは、飛行機マニア、映画ファンとしても忙しい。飛行機の話は何度もした。新機種の就航と聞けば「何としても乗らなければ」という思いがむくむくとわいてくるのを制することができない。家には日航からもらったジャンボ機のシートがデンとあり、客人には座っていただくことにしている。400個を超えたエアバックのコレクションも、疲労しなければ気がすまない。相手が怪訝(けげん)な顔したとしてもそうして私は一人悦に入るのだ。機長の制服もつくってもらった。

また、映画とも長いつき合いである。私の青年時代は、今とは違って、映画好きイコール「不良」「軟弱」と呼ばれたものだ。そんなレッテルにもめげずに、すでに半世紀以上、映画ファンであり続けたのだから、そんなレッテルにもめげずに、すでに半世紀以上、映画ファンであり続けたのだから、ちょっとしたものではないだろうか。

そのほか、斎藤家長男として、父茂吉の著作などをきちんと管理し、後世に伝えられていく仕事も課せられているし、父の短冊や軸物の鑑定も頼まれる。夫として、父親としての任務も大切に考え、それを実行してきたと自負してもいる。

時間を見つけて船旅にも、出かけたいと思っているし、年齢を考えれば、これでかなり多忙な身であるといえるだろう。

「大統領のように働き、王様のように遊ぶ」といえるかわからないが、多くの肩書をこなしていけるのは、プライベートが充実しているからこそと、自分では思っている。

     こんな「趣味」は疲労回復の名医

多くの人は「休みの日くらいは、ゆっくりのんびりしていたい」と考えるだろう。日に片付けられなかった仕事を家に持ち帰り、スケジュールを調整している人もいるかもしれぬ。

しかし、それらは感心できることではない。

仕事に打ち込むのはすばらしいことではあるのだが、オンとオフの切り替えもなく平日も休日も一本調子で働き続ける仕事人間は危ない。

心身にストレスを抱え込むばかりで、それを発散、解消しなければ、ついにはダウンすることになるだろう。最悪の場合は、過労死を招く。

「休日のんびり派」も、脳に対してつねに同じような刺激しか与えない点からすると仕事人間と同じで、好ましいことではない。いろいろな方向から様々な刺激が与えられてこそ、脳は鍛えられるのだ。私の専門である精神医学の見地から見ても同様である。

色々な体験、多様な刺激を受けて、心は豊かに育まれる。同じ理由で、とくにこれといったこともせず、だらだらと無為に時間を過ごすことも考え直してもらいたい。リラックスして音楽に耳を傾け、積極的にアルファ波誘因するのと、何も考えずにボンヤリしているのとでは、脳に対する影響は雲泥の差がある。

再び私事で恐縮だが、私の弟も精神科医の肩書のほかに北杜夫という作家の顔を持っている。医師であり、歌人でもあった父茂吉の血を、私も弟も受け継いでいるのだろう。二足のわらじといってもよい。

だれでも、仕事の顔、家庭の顔、この二つはもっているはずである。

できれば、これ以外にもう1つの「自分の顔」をもつことをおすすめしたい。具体的にいえば、趣味に没頭しているときの顔である。

音楽が好きであれば、聞いているだけでなく、楽器の練習を始めてみる。美術部に所属していたというなら、もう一度絵筆をとってみるとか、陶芸を習ってみるのもいい。

楽器を練習したり、絵を描くのは、右脳を鍛えることにもつながっている。

オンライムでは、論理の脳といわれる左脳をフル回転させているのだから、オフタイムでは左脳を休め、感覚の脳といわれる右脳を使ってやるのである。

こうすれば、左右の脳をバランスよく刺激することができるわけだ。

たのしいことに集中しているときに分泌されるドーパミンが、脳をさらに活性化させてくれるはずだし、健脳のツボが多くある手を使う効果も得られる。

趣味の世界を広げ、その分野の知識を増やしていくと、思いがけないときにその知識が役に立つこともあるだろう。

テニスやゴルフ、水泳などで、ふだんはあまり使わない筋肉を動かすことも、張り詰めた脳と心に快さをもたらしてくれる。

もう一つの自分の顔をもつことは、計り知れない効果を与えてくれるのだが、一番大きい恩恵は、心底エンジョイできる有意義な人生を得られることかもしれない。

もっとも簡単にいえば、「本業以外」の趣味を持っている人は、総じて晩年の生きざまが幸福であるといえよう。