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button-only@2x 体内時計を常に「ジャスト」にセットせよ

1996年から97年にかけての年末に海外へでかけた人は、およそ66万人だったという。前年の60万人より一割も多い、非常にたくさんの方々が外国で新しい年を迎えたわけである。

年末年始にかぎらず、ゴールデンウイークや夏休みなどを海の向こうで過ごす人は、年々増加する傾向となり、歓迎すべきことだと私はは考えている。

ただ、外国の斬新な風景や空気ゆえであろうか、暴飲暴食に走ったり、朝方まで遊んだりして、体調を崩してしまう人が少なくないらしい。ハメをはずさなくても、帰国後なかなか時差ボケが解消されず、頭痛や倦怠感などに悩まされっぱなしという気の毒な方もいるだろう。

海外旅行のように、いつもと異なる環境に身をおいたとき、もっとも大切なのは、ふだんの生活リズムをできるだけ保つよう気を配ることだ。朝昼版と規則的に食事をすること、睡眠時間を充分に確保すること、この二つを守るだけで、体調不良のために旅先でダウンしてしまうようなことは、かなり避けられるはずである。

 なぜ脳の一日は、「25時間」なのか

人間を含めて生物はすべて、体内時計を体の中にもってる。夜は眠くなり、朝に目覚め、時間がくれば空腹を感じるのは、この体内時計のしわざである。専門的にはサーカディアンリズム(概日リズム)と呼ばれるこの体内時計を動かしているのは、ヒトを含めた哺乳類の場合、脳の視床下部にある視交叉上核である。

時差ボケは、この体内時計の狂いから生じる。ヨーロッパやアメリカ本土へ旅したことのある人は、程度の差はあるだろうが、時差ボケのつらさを体験しているに違いない。

二から三時間で行ける香港やグアムはともかく、日本時間ならそろそろ就寝という時間に現地に到着、外へ出れば朝のさわやかな陽光が光り輝いているのだから、体内時計が乱れてしまうのもしかたない。

というのも、日々、体内時計の狂いを微調整しているのが、朝のまぶしい光だからだ。

人間の体内時計の周期は、本来は二十四時間より少し長く、25時間くらいであるとされている。太陽の光を遮断した場所に人間を閉じ込める実験を行うと、覚醒と睡眠がほぼ25時間の周期で見られるからだ。つまり、人間の体内時計は一日につき一時間ずつずれていき、約12日で自然界の昼夜と逆になる。そして24日後に再び昼夜が一致することになるわけである。

本来の体内時計の周期にしたがっていては、まともに生活できないわけだ。この一時間という微妙なずれを毎日調整してくれるのが、自然の光なのである。

室内照明の明るさは150ルクス程度だが、自然光なら曇りでも役4000ルクス、晴れなら1万ルクスだ。太陽の光がどれほど大きな刺激を脳に与えるかがわかるだろう。

調節のしくみはまだ詳しく解明されていないが、光を感じ取った目の網膜から脳の視交叉上核へ情報が伝達されるのではないかと考えられている。

太陽の動きは、太古から地球上のあらゆる生物に多大な影響を与えてきた。太陽が地平線から顔を出し、また地平線のかなたに沈んでいくという自然界のリズムに従って、人間も生きてきたのだし、そのような生活本来の自然な姿である。

視交叉上核の「怠惰」が判断力を鈍らせる

しかし、現代では、こうした自然な生活のあり方が大きく変化してきている。とりわけ都会では、日の入り後も街はネオンが煌々と輝き、24時間営業のコンビニエンスストアが客を持つ。いわゆる夜型人間にとっては、便利このうえない時代になっているのだ。

東京都内に居を構える私も、都内の便利さは享受しているわけだから、それについてとやかくいうつもりは毛頭ない。ただ、夜型の生活パターンが、本来の自然な生活リズムとは異なっているいることだけは、申し上げておきたい。もちろん、脳にとっても好ましいことではないわけだ。

そうはいっても、仕事がら深夜に及ぶ残業がつきものだったり、早朝出勤や夜勤が避けられない職種も少なくない。昼はアルバイト、勉強は夜という学生もいるだろう。

そのような方には、自分なりの生活リズムを確立することを第一におすすめしたい。夜型なら夜型としての規則正しさを崩さないようにするわけだ。

脳に一番よくないのは、寝る時間や起きる時間が定まっていない、食事もしたりしなかったりという、行きあたりばったりの生活である。

そんなことでは体の調子もよくないはずだし、どれほどすばらしい判断力などの脳力をもっていても、充分に発揮できるわけがない。

なぜなら、体内時計は自律神経に多大な影響を及ぼしているからである。

体内時計を動かしている視交叉上核のすぐ近くにある自律神経は、消化、吸収、排泄など重要な体の働きをコントロールしているからだ。

規律のない生活は、体内時計を狂わせ、自律神経をも乱してしまう。いわば、慢性的な時差ボケに陥っているようなもので、つねに体調不良、倦怠感、疲労感、頭痛などを抱えるはめになるのである。

具体的には、就寝と起床、食事の時間をきちんと守ることから始めるといい。それだけで、生活にメリハリがつき、脳が活性化することは間違いない。

そして、自分の体内時計を自分できちんとセットしたら、それに従った生活を心がける。これが脳力アップの第一歩である。

  なぜ「朝のまぶしい光」は脳細胞にいいのか

朝方人間、夜型人間を問わず、まず自分なりの生活リズムをつくることが脳にいいと述べたものの、朝方のほうが望ましいことはいうまでもない。日の出とともに起きて働き、日の入りとともに体を休めるのが、サーカディアンリズムに忠実な自然な姿なのである。

自然のリズムに従ったほうが心身のいずれも健康になるのは当然だろう。

夜型の生活しか選べない人はしかたない。しかし、夜のほうが勉強や仕事がはかどるからという理由から夜型を選択している人がいたら、それはたんなる習慣であって、朝方に切り替えたほうがもっとはかどるのだと教えてあげたい。

    大切な仕事は「午前中」にすませよ

これは、別章でもふれた体温の上昇リズムを見ればはっきりわかる。人間の平均体温は約36度。体を動かしているときには体温は高く、眠って疲れを癒している間は低くなる。

高体温のピークは午後二時ごろ、低体温のピークは午前二時ごろ。つもり、朝起きてから午前中、そして午後二時前後にかけてが、体の各機能が活発に動けるように体内でどんどんエネルギーが燃焼する時間なのである。

この時間に勉強や仕事が充分できるように生活するのが、能力を全開し、それ以上の力を獲得するポイントである。

このピークを過ぎてからは、徐々に体温は低くなる。つまり、エネルギーの燃焼が弱まっていく。だから、この時間には休息し、明日の活力を養ったほうがいい。

ところが、夜型の人は、エネルギーの燃焼が弱まっていく時間帯に作業をしているわけだから、体のほうは脈拍を上げて体温をキープしようとがんばってしまう。これが体にどれほどの負担を強いているかは、受験の時期のことを思い出してもらえばわかりやすいだろう。

深夜に及ぶ勉強が続くと、まず疲れやすくなる。そして回復も難しくなる。「睡眠時間は足りているはずなのに、目覚めがスッキリしない。体調もすぐれない」と首をかしげながら、また深夜まで体と頭を酷使することになるのだ。

体調がすぐれないのも当然だ。体の自然な働きを無視して負担をかけているのだから。

朝の自然光が視交叉上核を刺激する時間に、ふとん中でぐずぐずしていれば、体内時計も狂ってしまい、いつも時差ボケ状態である。

もし、片付けなければいけない勉強や仕事が残っていたら、早起きして朝やることをおすすめする。絶対に能率が上がるはずだ。

「早起きは三文の得、長寝は三百の損」「早寝早起き病知らず」といわれるとおりだ。古人がサーカディアンリズムや体温の上昇システムを知っていたとは思えないが、毎日の生活の中から生まれた知恵は科学的に見ても正しかったわけである。

「起き抜けに何をするか」が一日の時間効率を決める

企業のトップに朝方人間が多い、という話を耳いnしたことがないだろうか。

早朝散歩や早朝ミーティング、セミナー英会話学習や座禅など、「朝飯まえ」に一仕事をしているのである。

日中は分刻みでスケジュールが入っているため、早朝でないと自分の時間が取れないという理由もあるだろう。

しかし、早朝を巧みに活用しているのは、さすがにトップに立った人間だと感心しないではいられない。この方法をもっと多くの人が実践したらと、私はつねづね思っている。

「自分は宵っ張りではない。れっきとした朝方人間だ」と胸を張る人もいるだろう。しかし、出勤・投稿時間ギリギリまで寝ていて、あわてて、朝のしたくをすませ、小走りに家を飛びだすようでは、朝方人間とは呼べない。そんなことでは、せっかく朝方パターンも利用価値は半減である。

睡眠時間は約6時間を目安にして、就寝と起床の時間を設定し直していただきたい。

そして、朝目覚めたら、いつまでもふとんの中でグズグズしていないで、気合いを入れてとび起きる。朝のまぶしい光で視交叉上核を刺激するのである。

今日一日の体内時計を正しくセットするために、カーテンをサッと開けるのがいいだろう。

理想をいえば、まだ充分に温まっていない体を目覚めされるために熱いシャワーを浴びたり、軽いジョギング、乾布摩擦などを行うのがよい。体温の上昇を早めれば、血行や新陳代謝が促され、脳にもい刺激が与えられる。

もちろん、体と頭に今日一番の栄養を送り込む朝食も大切だ。

こういう早起き実践すれば、体と頭がもっとも活発に働く早朝から午後二時までの時間を長く利用できるのである。

しかも、学校や会社へ行くまでに、自分の時間が捻出できるという、大きなおまけもついてくる。健康のためにエクササイズをするのもよし、資格取得を目指して勉強に当てるもよし。自分を磨くために大いに活用していただきたい。早起きは、三文どころか、無限の価値を生むのだ。