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button-only@2x 生体時計が教える「食のリズム」の重要性

私たちは朝起きて、昼活動し、夜寝るというリズムの中で生きている。もっとも、夜ふかしはするし、ときに昼と夜が逆転する、けっこうでたらめな生活リズムではあるが。

しかし、それでもリズムが狂うと体に変調をきたすし、脳の働きが鈍くなる。端的な例が時差ボケだ。

朝は意欲的で昼は活動的、夜は本能的というのも一種のリズムであろう。

このリズムを決めるのは、脳の視交叉上核である。ここが生体時計の時刻発信装置の役割を果たしているのである。

いつもと違う時間に食事をしたり、食べるべきときに食べなかったりすることは、この視交叉上核の働きをおかしくする一因になる。

生体時計が狂ってしまうのである。

  これでは脳が毎日「時差ボケ」状態になる

ある調査によると、朝食をちゃんと食べる学生は、そうでない学生に比べて学習能力や成績がすぐれているという。

たしかにビジネスマンでも、たとえば生体時計が夜型に逆転してしまっていれば、朝起きて会社に行き、仕事に集中しようとしても、脳が活発に動いてくれるはずがない。ようやく動きだす午後3時ごろには、もうその日の仕事は終盤であるわけで、これでは脳力の半分も使っていないことになる。実績も上がらず、上司の評価がかんばしいわけがない。

朝食をとらないという一事が、せっかくの脳力を殺してしまっているわけだ。

毎日朝食を決まった時間にとる習慣は、あたりまえのようでいて大切なことである。

毎日8時に朝食をとる人は、午前五時ころには副腎皮質からホルモンが分泌され、起きたら脳や筋肉がすぐに活発ができるように準備をしておいてくれる。これが朝型人間のリズムなのである。

週末に、午前11時に朝食、午後3時に昼食などという生活をすると、体の準備とは違うリズムを強制することになるから、一日中すっきりいしないはずだ。

とくに霊長類は不規則な食事がリズムをこわす最大原因だと指摘する学者もいるくらいだから、食事の時間を一定に保つことが大事なのである。

そして、間食はごく軽くすること。

満腹中枢が刺激されると眠くなってしまうからだ。

  お酒をクスリにできる人、できない人

「酒は百薬の長」「酒は天の美禄」ともいうし、「酒は百毒の長」「酒に三十六の罪あり」ともいう。どちらも、いうまでもなく真実であって、酒を薬にするか毒にするかは、自分が「適量」の二字を遵守できるか否かにかかっている。

では、脳にとって「酔う」とは、どういう現象なのだろうか。

  アルコールは脳の細胞組織を溶かしてしまう

アルコールはフリーパスで脳内に侵入する異物である。脳は人体でもっとも精密で大事な組織だから、簡単には異物が侵入できないように液脳関門という防御システムが備わっている。脳内を網目のように走る毛細血管の回りはびっしりと細胞がおおい、分子量50くらいまでの小さい物質しか通れない。

脳に必要なアミノ酸やブドウ糖はこれを通過できるが、それ以外の異物、なかんずく水溶性のもの、高分子のもの、電荷を帯びたものは絶対に通さない。だから脳に投与する薬は、わざわざ脂溶性にする。

ところが、アルコール脂溶性で、巧みに血液脳関門を通過して脳内に侵入してしまうのである。同様の物質に、ニコチン、カフェイン、ヘロインなどがある。

侵入したアルコールはどういう作用をするか。脳の神経細胞は、一種の電気信号で情報のやりとりをしている。その電気信号で情報のやりとりをしている。その電気信号が目的の神経細胞にちゃんと行き着くためには、他の神経細胞に間違って行かないようにしなければいけない。

そのために、電化製品でいう絶縁部にあたる細胞組織が準備されているのだが、これがアルコールに弱い。アルコールが入ってくると溶けてしまう。こうして、信号がバラバラに散らばってしまって、正常な判断ができなくなる。

これが酔いの正体である。さらに、神経細胞の接続部分であるシナプスの間を伝わる神経伝達物質にも、アルコールは直接影響を与える。ますます脳の情報が混乱するわけだ。

アルコールは、度が過ぎると脳に大きなダメージを与える。

学生の一気飲みなどによる急性アルコール中毒は、肉体的な死をもたらすが、社会人にとっての怖いのは、アルコール依存症だ。

一般に、毎日、日本酒5合から一升(しょう)を三年以上飲みつづけると、ほとんどアルコール依存症になるという。手が震える、発汗がひどい、などの症状のほか、自分の肌にびっしりとゴキブリが這いまわる幻覚や、パラノイアを起こす場合もある。

結局、酒も過度になれば、ヘロインや覚醒剤と同じような薬物なのである。さらに、20年間、毎日、日本酒換算で五合以上を飲んでいる人の脳は、二から三割も萎縮してしまうという。

アルツハイマー病がクローズアップされる今作だが慢性のアルコール中毒、自分の手で、脳の萎縮をもたらしていることになる。

私が会長を務めるアルコール健康医学協会は「適正飲酒のすすめ」がおもな任務だが、適正な酒の量は、日本酒二合まで、ビール中瓶二本まで、ウィスキーの水割りダブル二杯まで、を提唱している。日本酒を一合飲むと、アルコールが体外に排泄されるまでに三時間かかることも、実験の結果わかっている。

  脳内物質の「脳内バランス」を守ってやれ

脳にとってアルコールより恐ろしい異物は、いうまでもなく覚醒剤や麻薬である。

その作用は、まさに人間を破壊し、廃人同様にしてしまう。

作家織田作之助は覚醒剤ヒロポンの中毒者で、新聞小説「土曜婦人」を書くとき、一回分原稿用紙三枚半を書くのに、なんとヒロポンの中毒者で、新聞小説「土曜婦人」を書くとき、

一回分の原稿用紙三枚半を書くのに、なんとヒロポン二㏄の助けを借りなければならなかったという。

最近は、若い人たちが興味半分に麻薬に手を染めると聞く。麻薬は、一度手にすれば、テレビゲームのようにスイッチを切って終わりにできるようななまやさしいものでないことを知っておくべきだろう。

ドラッグを使用したら、脳はどうなるのだろうか。

無数の神経細胞が、互いに情報交換することによって、脳の働きが生まれるわけだが、その情報交換に使われる物質が、アセチルコリン、アミノ酸、アミンなどの低分子物質やペプチドなどの神経伝達物質である。そして、この神経伝達物質のひとつドーパミンが覚醒剤の快楽の秘密を握っている。快楽を司るA10神経が使う神経伝達物質がドーパミンなのだ。これがA10神経から脳内に放出されると、脳が覚醒し快楽を感じるわけだが、このドーパミンを外部から薬物として強制的に入れると、ドーパミンが過剰になり、快感のあとも感情が高ぶりすぎて、ひどければ精神分裂にいたる、というわけである。

では、日常生活の嗜好品についてはどうか。

コーヒーなどに含まれるカフェインやニコチンもまた、脳にとっては毒物の仲間といえる。もちろん覚醒剤などの比ではないから、じっさいはそれほど問題ではない。カフェインは中枢作用薬で、細胞の中のカルシウムが増えると、神経の活動も活発になり、眠気がさめたり意識がはっきりしたりする。しかし、飲み過ぎると今度はかえっていらいらすることになる。

ニコチンは、タバコの葉に存在するアルカロイドである。神経伝達物質のアセチルコリン構造がよく似ている。猛毒なので脳に入る大変だが、煙を吸い込むくらいなら死に至るようなことはない。だが、覚醒剤と同じようにドーパミンやノルアドレナリンの分泌を高める。タバコの快感と禁断症状は、ここに由来する。