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button-only@2x 「朝食抜き」は学習能力を低下させる

肉体の活動には、当然エネルギーがいる。脳も同様である。

ただし、脳には二つの特殊事情があることを知っていただきたい

脳はブドウ糖だけをエネルギー源とする特殊な器官であること。もう一つは、ものすごい量のエネルギーを必要とする機関であることだ。

何しろ、体重全体の約二パーセントの重さしかない脳が、体全体の十八パーセントものエネルギーを消費するのだ。いかに脳が大食いの器官であるかがわかるだろう。

 目覚めたばかりの脳は何をほしがっているのか

このため、脳の力をつねに充分に発揮させるには、朝食をしっかりとることが何にもまして大切になってくる。

なぜ朝食が?と思われるかもしれない。

ひとつには、血液中のブドウ糖濃度をすみやかに上げるためである。脳が働くには大量のブドウ糖が必要なのだが、朝食前の体内のブドウ糖の血中濃度は、かなり低くなっている。通常、人間の血液一デシリットル中のブドウ糖は100ミリグラムに維持されているが、朝食前は、これが60~70ミリグラムに低下している。

これは激しい運動のあとや空腹時の量とほぼ同じ。これでは、脳が活発に働くわけがない。かなり思考能力が低下し、怒りっぽくなったり、騒音に敏感になったりする。さらに低い量、50~60ミリグラムになると、ひどいときには、意識をなくしたりすることもある。だからこそ、朝起きたらなるべく早く栄養を、なかんずく糖分や炭水化物を補給する必要があるのだ。

 「朝メシ前」に本当にいい仕事はできない

脳にとっての朝食の重要性はもうひとつある。それは、体温との関係だ。人間の体温には、24時間の周期がある。もっとも体温が高いのは昼の二時ごろ。そしてもっとも低いのは午前二時である。夜ふかしをすると寒く感じることがあるのはこのためで、じっさい、午前二時と午後二時の体温は一度くらいも開いている。

そして、体温と知的作業能率密度に関係する。体温が高いときほど知的作業能率は高く、体温が低くなると知的作業能率も低下するのである。

朝起きたらばかりのときは、体温はまだ低い。その低い体温をなるべく早く上昇させてあげることが、頭の回転をアップさせることにつながるというわけだ。

そして、体温を上昇させる最適の方法が、食べることなのである。食事をすると、体温を上昇させる最適の方法が、食べることなのである。

食事をすると、体温を上昇させる最適の方法が、食べることなのである。

食事をすると、体温は急速に上昇し、早くも一時間後にはピークに達する。そして五~六時間はそのまま高い体温が持続する。

つまり、朝食を食べて家を出て、会社に一時間後に着いたとすると、体温はピークになっていて、すぐにでもばりばり仕事を片付けられることになる。しかも数時間はその状態が継続するのだ。

このような現象を食物の特異動的作用と呼ぶ。とくに、蛋白質にはこの作用が強く、カロリーの20%がこの種の熱に変わる。ちなみに、脂肪や糖は5%程度である。

こうしたことから考えると、炭水化物と蛋白質のバランスのよい朝食が大事だということができよう。

伝統的日本食は、その点でもすぐれている。米という炭水化物に、納豆や味噌汁で良質のたんぱく質を補給できる。まあ、養殖でもパンで炭水化物に、納得や味噌汁で良質の蛋白質を補給できる。

まあ、洋食でもパンでも炭水化物を、目玉焼きや牛乳で蛋白質を補給するから、人間の知恵は洋の東西を問わないというほうが正確かもしれないが。

  「腹が減っては戦ができぬ」ことの脳生理学

ある時代まで、日本の食事は一日二度だった。それが三度になったのは、人々が脳を酷使するようになったからだという説がある。

筋肉や肝臓には、ブドウ糖の貯蔵庫であるグリコーゲンがある。が、脳にはこれがほとんどない。つまり、食事の間隔が多少あいても、筋肉や肝臓は貯蔵したエネルギーで活動を維持できるが、脳がだけは、こまめに食事をしてエネルギーを補給してやらないと働くことができないことになる。

一回の食事で、肝臓なら50~60グラムのグリコーゲンが貯蔵できる。が、一日に120グラムものブドウ糖を必要とする脳に十分なエネルギーを供給するには、これでもとても足りない。脳は、一日に二度の食事では存分に働けないのである。

将来、人類がもっと脳を使うようになれば、一日に四回から五回の食事になる可能性もある。これは、脳がもっとも大事な身体的要素である人間にとっては、あたりまえの「進化」といえるかもしれない。

三度の食事のほかにも、脳にいい食習慣がある。ティーブレイクだ。脳を休めると同じ、脳に糖分を送ってやることができ、かつカフェインの作用で眠気を覚ます。

そういうことから考えると、脳のためにはコーヒーはブラックよりも砂糖入りの方がいいことになろう。

ブドウ糖の投与と車の運転ミスの頻度との関係性調査がある。それによると、時速70キロ以上の運転では、ブドウ糖を与えられたドライバーは、与えられない人に比べて格段に運転ミスが少ないという。

長距離トラックの運転手が、休息時に砂糖入りのコーヒーを好んで飲むのは、こうした体の自然な欲求からみると、じつに理にかなったことといえよう。

  記憶・勉強には、このミネラルが不可欠

脳の研究がめざましい進歩を遂げている理由の一つに、ごく微量のイオン変化や化学物質の量の測定ができるようになったことがあげられる。

これまで心理的、精神医学的にしか説明できなかった心の動きまで、物質の側面からとらえることができるわけだ。

こうして解明された、脳に不可欠の物質の中で、注目をあびているのが、カルシウムである。

カルシウムというと、骨や歯を連想するだろう。成長期の子どもや妊婦のカルシウム摂取の必要性があちこちで説かれていたりする。が、カルシウムの働きは、もっと広いころがわかってきた。

まず、細胞のしくみがこまかく解明されるにつれて、細胞の機能のうえでも非常に重要な働きをすることが判明してきた。

たとえば、筋肉の収縮。細胞の中のカルシウムが欠けると、すぐに筋肉が動かなくなってしまう。逆に高血圧や心臓病の人は、カルシウムが多すぎると収縮の度合いが大きくなり、患部に悪影響がある。それで、筋肉細胞内へカルシウムが流入するのをストップさせためのカルシウム拮抗薬を投与することで、血圧の上昇などを防げる、ということなどがわかってきている。

 長期記憶を増強するプロテインキナーゼCとは

脳にとっても、カルシウムはさまざまな働きをする重要な物質である。私の専門とする分野では、神経症(ノイローゼ)も躁鬱病もカルシウムと関係が深いことがわかってきている。さらにカルシウムは、記憶や学習能力にも大きな影響を与えている。カルシウムがないと、働きをなさない酵素がある。その一つが、一般にはCキナーゼと呼ばれるプロテインキナーゼCだ。

神戸の大学の西塚秦美教授が詳しく研究するまでは、Cキナーゼはさほど重要な物質だと思われていなかった。ところが、西塚教授の研究などによって、学習能力、とくに記憶能力を高める働きをしていることが判明していることが判明したのである。それも長期記憶に関係にしているらしい。

このCキナーゼを活性化させる物質がカルシウムなのである。

Cキナーゼの働きは、次のようなものだ。カルシウムによって活性化されたCキナーゼは、細胞質から細胞膜のほうへ移動し、細胞膜を構成しているリン脂質と結合して、B50という蛋白質を長期にわたって活性化し続ける。通常は、いったん結合しても、刺激なくなれば、その時点ですぐ離れるのだが、この場合は活性化され続け、なかなか結合が離れない。こうして細胞の構造に変化が起き、生化学的な特質が変わることによって、長期記憶が保たれることになる。

 なぜカルシウム注射が重要な治療法だったのか

このように、長期記憶に関係した物質Cキナーゼは、カルシウムによって活性化されるわけだが、カルシウムがないと働かない物質はもうひとつある。

カルモデュリンという物質だ。

このカルモデュリンにカルシウムが結合すると、カルモデュリンキナーゼという物質になり、これが神経伝達物質を放出したりする。

ところが、このカルモデュリンキナーゼもまた、長期記憶の保持に密接に関係していることが最近になってわかってきたのだ。

Cキナーゼにしても、カルモデュリンキナーゼにしても、その働きの鍵を握っているのは、のは、カルシウムだ。カルシウムが記憶にとっていかに大切な働きをするかが、これでわかるだろう。もちろん、カルシウムをたくさんとれば記憶力が増す、などという短絡的なことは考えるべきではないだろう。事実、カルシウムに関して次のように指摘する医者もいるからだ。

「細胞内にカルシウムが流れ込んでくると、石炭化が起きて細胞が死滅する。」老人性痴呆症の患者の脳には、そうした神経細胞の石炭化がたくさん見られる。これはもしかすると、カルシウムの流入と関係があるかもしれない」

私も、もろ手をあげてカルシウム万歳という気にはなれない。

しかし、いずれにしても、記憶をはじめとする脳学習能力にカルシウムが大きくかかわっていることは間違いなさそうなのだ。

少なくとも、カルシウム不足が脳の働きを低下させることは事実であるように思う。戦前、私が大学病院にいたころ、精神科の外来患者にはカルシウムの注射をしていた。

ろくな薬のないそのころは、カルシウム注射が重要な治療の一つだったのである。