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button-only@2x 「どう食べるか」で脳力はまるで違ってくる

 

ゆったりと食事をすることは、それだけで脳の働きを活性化する。

食欲を満たせば、気持ちにゆとりができる。箸を持つ手や、粗食する顎の運動が脳に刺激を与える。食卓を囲むと心が開放的になり、話もはずんで、やはり脳が刺激される。楽しくおいしい食事は、精神衛生上も非常に大事である。

中でも脳の働きを鋭くすのは、「噛む」行為だ。

最近の日本人は、やわらかいものばかり食べる影響で、顎が退化し、歯の数が減っているというが、これは脳にも悪影響を与える事態である。

   顎の筋肉と脳の血液循環の微妙な関係

なぜ、しっかり噛むことが脳の働きにいいのか。まず、顎の筋肉が繰り返し収縮したり支援したりすることで、脳の血液循環が促進され、代謝が活発になる。数回サクサクと噛んですぐ飲み込むような食べ方は、胃腸にもよくないし、脳も刺激しないということだ。

さらに、よく噛んで食べると、舌の味覚神経や臭覚神経がより多く刺激される。噛み方が足りないと食物のもつ本当のうま味はわからない。ご飯とおかず、それに唾液がよく混じることでかもしだされる微妙な味こそが、五感をさまざまな刺激し、脳に精妙なパルスを送るのである。

また、よく噛むと消化管ホルモンが分泌され、視床下部、海馬を刺激することになる。海馬は記憶を司る部分でもあるから、これは記憶学習効果の向上へとつながる。

こうした効果を、ネズミを使って証明した実験がある。岐阜県朝日大学の船越正也学長の研究だ

ネズミを、通常の固形飼料を与えるA群と、噛まなくてもいい粉末飼料を与えるB群とに分けて飼育し、条件回避学習という学習テストを行なったところ、A群のネズミのほうが、B群よりも明らかにいい結果をだしたという。

人間にも同様の効果があるだろうことが類推できる実験であろう。歯が悪い老人ほど、老人ほど、老人性痴呆症になりやすいという調査もある。逆に、いつまでも歯が健康で、おいしく食べられれば痴呆症にもならない可能性が高い。

付言すれば、硬いものばかり食べたほうがいいのではない。硬軟にかかわらず、食べ物を、しっかりと何回も噛めばいいのである。

    「孤食」に、いいことは一つもない

食事でもう一つ、気になるのは、一人で食事をしたがる人が増えていることである。家族や仲間と一緒に会話しながら食事をしたほうがおいしいに決まっているのに、「孤食」を好むとは、どういうわけだろうか。だが精神科の病院でも、そうした孤食の患者が増えてきている。重症になると、大勢の人がいる食堂では食事ができない、ということまで発展する。

こういうことは、親離れ子離れの一過程で起きることがあった。しかし、最近の健康は、それとは違うようだ。非常に激しい情緒不安定の要素があり、さまざま精神のアンバランスを生み出す可能性が高い。若者、子どもの「心の病」の初期症状が「孤食」であることが少なくないのだ。

孤食の傾向は、若者や子どもだけでなく、家族全体の病理であろう。

父権の衰退がいわれて久しい。威厳を示せないばかりか、家族に団欒すら与えられない父親がふえているようだ。

毎晩帰りが遅くて、一緒に食事をするどころか、妻や子が今夜は何を食べたか知らないような父親たち。残業、接待、つきあいを口実に、家になかなか帰らない父親が多すぎる。そういう状態が日常化すると「妻の顔をみたくない」「子どものおしゃべりがうるさい」とエスカレートしていく危険性がある。

事実、昭和から平成に年号が変わったころから、サラリーマンの帰宅拒否症候群が、私たち精神科医の間でも話題になり始めた。

彼らの頭はいつも仕事のことや職場の人間関係のことでいっぱいだ。休日でも仕事をしないと不安になる。

頭痛や不眠、情緒障害を防ぐのも、家族と一緒の食事が第一なのである。