Pocket

button-only@2x 飽きっぽさを克服する「能力革命」button-only@2x 飽きっぽさを克服する「能力革命」

赤ん坊、おなかがすいた、おしめが濡れた、暑い、寒い、などの不快があれば、ひたすら泣いてどうにかしてほしいと訴える。おとなのつごうなどがおかまいなしの、大脳辺縁系の生き物である。

わがままな欲求ばかりの状態ではあるが、動物としてはきわめて自然だともいえる。だが、おとなには、赤ん坊のように動物的な自然さは、むろん許されない。

だが、おとなには、赤ん坊のように動物的な自然さはむろん許されない。

空腹でも眠くても、仕事は容赦しない。ウマが合わない相手とも付き合っていかなければならない。不快なこと、嫌いなことでも、感情を押し殺して対処する必要があるし、うれしさや喜びを率直にあらわしてはいけない場合もあるだろう。とくにビジネスでは、個人的な感情をはさむのはタブーとされる。

このように、周囲の状況によって自分の感情や欲求を抑えるのは、大脳新皮質の働きである。考え、判断する新しい脳が、生き物としての自然な行動を指示する古い脳の働きを抑え込むのだ。

      ためると取り返しの「大脳の歪み」

ストレスはこうして発生するストレス「歪み」を意味するといわれているが、なるほど、大脳辺縁系の自然な働きが歪められることが原因というわけである。そして、小さなストレスが積もり積もって、ついには、神経症、心身症、鬱状態に到達する。

ではストレスを受けると、どのような変化が起きるのだろうか。

まず、交感神経が活発に働き出す。副腎から多量にノルアドレナリンを分泌して、血圧を上昇させたり、顔面を紅潮させたりして、心身の活性化を図ろうとする。このノルアドレナリンの怒りのホルモンとも呼ばれており、自分の危機を打開しようと、心身をいわば臨戦状態に整えるのだ。また、モルヒネに似た快感物質エンドルフィンが脳内に分泌される。心身の痛みを和らげ、気分転換を図ろうとするわけだ。

しかし、この状態がいつまでも続くのは好ましくない。心も体も極度に緊張しているからだ。脳は、休息もしたいが休めないという新たな欲求不満を抱え込むことになってしまう。

こうしたストレスの悪循環は、胃潰瘍などの病変にもつながる。なぜなら、大脳辺縁系は内臓の働きや自律神経をもコントロールしているからである。

ストレスが高じると、大脳新皮質も無害ではいられなくなる。これまで見てきたように、古い脳や新しい脳はそれぞれ単独で機能しているわけではない。だから、人間らしい精神活動に支障が出てくることになりかねないのだ。

たとえば、自分の主張を意固地なほどに押し通そうとする。他人の足を引っ張ったり指示悪をするのが平気になる。分別のない言動が目立ってくる。

このような精神的に不安定な状態が解消されないと、ついには鬱病などの精神疾患に陥る危険性も非常に高い。ふだんは、頭脳明晰で紳士的なタイプほど、この傾向が強くあらわれやすいので要注意である。

こうした事態を避け、脳の正常な機能を保持するためには、ストレスをため込まず、適当なところで発散して、大脳辺縁系の歪みを正してやる必要がある。

   こうすればストレスに「呑まれる」ことはない

その方法、すでにみなさん、お持ちだろう。男性なら、まず酒場に足が向かうのではないだろうか。居酒屋で日ごろのうっぷんを晴らし、カラオケで思い切り声を出し、すっきりしたところでもう一軒、なじみのパブでままとおしゃべりを楽しむ。

たしかにアルコールは大脳新皮質の働きを弱め、心と体をリラックスさせる作用があるから、日中抑圧されていた大脳辺縁系を解放してやるには最適である。ただ、アルコールを分散処理する肝臓を酷使するような飲み方ではなく、あくまでも自分の適量を知っていることが大切である。

女性ならば、ちょっと高価なバッグや宝石を購入して贅沢な気分を味合うとか、友人どうし誘い合ってケーキビュッフェで食べ放題、あるいはエステティックや最近注目されているアロマテラピーを試してみるといったところだろうか。

ちなみに私は、家の書斎に閉じこもって、モヤモヤを紙に書いては、段ボールに箱に投げ入れる、ということをやっていた。

これでけっこう発散できたし、酒の席でクダを巻くより紳士的だろうとも思っていたのである。ストレスのいっぱい詰まった段ボール箱がずいぶん増えたところで、これが、引っ越しのさいに処分されてしまったらしい。

また、酒は私も大好きだから、いつまでもアルコールといい関係を保てるように心がけてもいる。

他にも、スポーツ、キャンプやドライブ、長電話など、いろいろな方法があるだろう。自分なりのストレス解消法をもつのは、脳ためにもぜひとも必要である。どんなに卓越した能力の持ち主でも、ストレスに押し潰されては、力を発揮することはできないからだ。逆に胃痛を抱えたり、自律神経失調症に悩んだりするはめになるはずだ。

社会の中で生きている限り、ストレスのまったくない生活などありえない。ビジネスだけがストレス最前線なのではない。学生、主婦、フリーター、職人定年退職した人、老若男女さまざまな立場の人がそれぞれの理由でストレスを抱えているのである。

だからこそ、ストレスに振り回されるのではなく、コントロールすることが大切なのだ。

タフな脳ーーーやる気ホルモンは、こう充満する

脳内に分泌されるホルモンは、ドーパミンの他にも見つかっており、その数は二十数種にも及ぶとされている。

たとえばエンドルフィンは、ドーパミンの分泌を促し、その働きを強化する役割を担う。その快感作用、鎮痛効果は、麻薬のモルヒネと同様なので、エンドルフィンは別名体内モルヒネともいわれる。

怒りのホルモンと呼ばれるノルアドレナリンは、強烈な覚醒作用を及ぼし、ストレスに対抗するのはもちろん、生命を脅かすような外敵にも立ち向かっていく、いわば動物的な攻撃性を引き出すホルモンである。

アドレナリンは恐怖のホルモンと称され、驚いたときに多く分泌される。すぐ行動を興せるよう血糖値を増やすなど、ノルアドレナリンと似たような性質を持っている。

ちなみにノルアドレナリンとアドレナリンは、人工的でなく自然に生成される物質の中では、フグの毒、ある種の細菌の毒につぐほど毒性が強いという。

これらのほかにも、活動を抑えて神経を休め睡眠を誘うセロトニン、性欲をコントロールするLHRHなどが知られている。

しかし、何といっても特筆すべきは、1969年に発見された、やる気のホルモンとも呼べるTRHの存在であろう。

  ビジネス力を覚醒させるサイトロピン放出ホルモンの秘密

正式名称をサイトロピン放出ホルモンというTRHは、さまざまな欲求を生み出す視床下部でつくられ、やる気の指令を発する側坐核に作用している。

脳幹、扁桃核、海馬などの古い脳に多くTRHの受容体が見つかっているが、人間らしい意志や創造を司る前頭連合野をはじめとして、記憶や学習に関係の深い部分へも働きかけていることがわかっている。作用する部分が、快感中枢であるA10神経のルートと似通っているところが興味深い

THRは、脳を覚醒される、神経を興奮させる、体温上昇、血圧上昇、心拍数増大、発汗などの作用を及ぼす。動物に投与する実験では、にわかに元気いっぱいになり、そこらじゅうを飛び回るひたすら走り続ける、といった行動が見られたという。しかも、ドーパミンやノルアドレナリンはTRHの働きに影響を受けて分泌されるというから、TRHはまさに心身をかり立てる、やる気ホルモンなのである。

以上が、欲求や意欲がわきでる脳の部分、その部分に作用する脳内ホルモンの概観だ。ところで、私たちには、食欲や性欲など生命そのものに深くかかわる動物的な欲求のほかに、人間ならではの欲求がある。

他人に認めてもらいたい、自分の生きがいや使命を果たしたい、自分らしさを発揮したい、という欲求である。アイデンティティとかリーゾンデートルといった言葉で表現されるが、「人間はいかに生きるべきか。そして、自分はどうすべきか」といった古今東西の哲学者や作家が追及してきた問題にも通じるものだ。

簡単な例をあげよう。

例えば「今回の仕事が成功したのは、きみのおかげだ」と上司から言われたら、多少の誇張があると知りつつも、素直にうれしいものである。つい、もっとがんばろうという意欲がわく。意欲的になると、頭が冴えて120%の能力が発揮され、何でも思うとおりに進んでいく。

一方、ガミガミ叱られたりすると、気持ちが沈んで意欲がわかないどころか、通常ならば何の支障もなくできることさえできなくなってしまう。

自分の使命や自己実現、アイデンティティなどというと難しいように思える。しかし、意識するしないにかかわらず、自分が頑張る理由、がんばったことに対する評価をだれもが求めているのだ。

そして、このような欲求も満たされることを、脳は望んでいるのである。アイデンティティを示すことができて、正当な評価が得られることは、喜びであり、幸福であり、つまり快感だからだ。

   創造力を伸ばすカギは「前納連合野」にある

こうした欲求を司っているのは前頭連合野である。大脳新皮質のうち、額の内側にある部分で、前向きにものを考えたり、将来を設計したり、創造力を発揮するなど、人間らしい部分で、前向きにものを考えたり、将来を設計したり、創造力を発揮するなど、人間らしい精神活動に深く関係しているところである。

これは、極度の凶暴性を持つ患者に対して、脳のこの部分を切除するロボトミー手術を施したところ、暴力性は失われたが、、人生を積極的にに考え創造していく能力も失われてしまったことからわかったことだ。

手術をほどこされた患者は、自分の長い人生を創造するどころか、一時間先のことにも考えが及ばない。生きる意欲がないと同時に、死にたくないという生存欲もない。心の動きもなければ、食事のために自分から食卓の前にすわる行動すら見られない。

ただじっとしたきり、息をしているようなものだという。

生存欲や食卓じたいは大脳辺縁系の働きによる。が、それらを基本的な欲求を人間らしいスタイルで満たしていく役割を前頭連合野が担っているといえるようだ。

欲求とは基本的には利己的なものである。場合によっては、自分の生存欲求を満たすために他の生物を犠牲にすることもある。

つまり、前頭連合野は、強烈なエゴをうまくコントロールして、パワフルに生きるための熱量に昇華しているわけだ。

そして、それが人間の知恵と呼ばれるものなのである。

前頭連合野は、大脳の中でもっとも高次の働きをする部分であり、その働きができあがるのも一番遅く、新皮質と区別して新新皮質とも呼ばれている。

この前頭連合野を使わないと、ロボトミーを施されなくても、無関心、無感動、無気力な人間になってしまう。

もちろん、自分は何のために生きるのか、使命とは、といった問いには簡単に答えは見つからない。だから、身近な会社や家庭の中で自分が果たすべき役割について考えることから始めればよい。こうして前頭連合野を使うことだ。できることから着手していく段階で、やる気が生まれ、じっさいに行動してみることで喜びを感じることができる。