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button-only@2x 目標達成力は「欲の大きさ」に正比例する

古来、英雄と讃えられた人物は色を好んだといわれている。ナポレオンは、もっとも熱愛した皇后世セフィーヌのほか、何人も女性を愛したことで知られている。唐の玄宗は妻を亡くしたあと、息子の后であった楊貴妃を自分の側室として手に入れてしまう。

日本男子も負けてはおらず、天下を治めた将軍や貴族たちには正妻のほかに何人もの個室や愛人がいたり、使用人を見初めて跡継ぎを生ませたために結婚したなどといった、何ともうらやましいような(?)エピソードが数多く伝えられている

ただ、英雄たちは色も好んだが、グルメでもあっただろう。浪費家でもあったと考えられるし、多芸でもあったに違いない。

好きなタイプの女性はいつもそばに置きたいし、最高においしいものを毎日食べたい、世界中の宝物をわがものにしたいし、刀剣や馬術の名人上手といわれたい、グッとくる歌を詠みたいし、民衆や部下から好かれ尊敬されたい・・・「あれもしたい、これもしたい」の塊だったのではないだろうか。

この「あれもしたい、これもしたい」というのが、気力充実、やる気満々ということである。

    大脳辺縁系——–人を「必死で走らせる」意欲の脳

歴史的人物にかぎらず、さまざまな分野で精力的な活動を展開している人は、同じ傾向があるはずである。周囲を見回しても、仕事ができると評価されている人は、おしゃれでだったり、スポーツもできるし、料理の腕前がセミプロ級だったりする。異性に人気があって、色を好むかもしれない。

一章で述べたとおり、脳には知・情・意の三つの働きがある。見たり聞いたり触れたりしてして得た刺激に対して、まず「情」の部分が反応し、快不快、喜怒哀楽、恐怖といった感情が芽生える。

次に「意」の部分が発動し、不快、恐怖をもたらす刺激からは逃げたい、喜びや快楽を与えてくれるものには、もっと近づいておなじ快感を味わいたとする。きわめて素朴な意志や意欲が生まれる。

そして、不快を避け、快を得るには、具体的にどう行動したらいいかを「知」の部分が決定するわけだ。「知」のほとんどは大脳新皮質、「情」「意」は大脳辺縁系が関わっている。そして、やる気とか意欲は、情・意の部分に関係が深い。

もう少し詳しく見ると、ここでは扁桃核、視床下部、側坐核がとりわけ大きな役割を果たしている。扁桃核は、好き嫌い、怒りや恐怖といった感情をコントロールしている。視床下部は食欲や性欲などの動物として基本的な欲求を司るほか、「あれもしたい、これもしたい」という欲を生み出す。側坐核は、その欲の実現に向けてやる気の指令を発する。

この三つの脳の信号が大脳新皮質に伝えられ、具体的な行動プランを組み立てるのだ。

こう考えれば、性欲にも「成功欲」の利息がつく

興味深いことに、脳全体の大きさは、ヒトが他の動物を圧倒するのだが、大脳辺縁系にかぎっては、それほど大差がないのである。

おなかいっぱいに食べ、快適に眠り、敵を恐れ、自分や種族の生存を脅かす相手には怒り、確実に子孫を残していく、このような生命活動そのものにかかわる反応や行動を司る部分は、もっとも進化を遂げた人間の頭蓋骨の中にもそのまま残されているのである。

つまり、やる気とか意欲は、動物としての欲求であり、本能なんだと言い換えることができるだろう。

もちろん、古い脳である大脳辺縁系をはるかにしのぐ大きな大脳新皮質があるおかげで、人間は、基本的な欲求をも、洗練された手段で実現できるわけである。

このように見ると、英雄がなぜ色を好むか、わかってくるのではないだろうか。

性欲も食欲も「あれもしたい、これもしたい」という諸欲も、脳の同じ部分から発しているのだ。だから性欲が強い人は、所有欲、支配欲、自己顕示欲も強い。欲求が強いから、それを実現させるための努力も人一倍だ。欲求の具体化のために、周囲の状況を洞察し、理解し、判断し、損得を計算し、精神を集中し、手段や段取りを工夫し、といったぐあいに頭をフル回転させる。

そして、運と能力しだいでは成功を手に入れ、英雄にもなりえるわけである。こんな例もある。病院では男性と女性は別の病室に入るのが一般的だが、つごうがあって男女を同じ病室にしたところ、ボケの症状ひどかった老人が回復したというのだ。

身近に異性がいることで、性本能が刺激され、その結果、脳によい影響を及ぼしてボケが治ったものと考えられる。

これは、極端な例かもしれない。が、異性と話したい、仲よくなりたい、好かれたいというだれもがもつ根本的な欲求がよみがえるだけで、これほどの効果があるという事実は見逃せないだろう。

自分を振り返ってみてほしい。休日にデートの約束があれば、ウィークデーの仕事や勉強にハリが生まれる。「仕事でミスした」「試験に失敗した」などという話はしたくないし、自分は素晴らしい人間だと認めてほしいから、何でも懸命にがんばるはずだ。仕事だけ、勉強だけのころよりも、気力は充実し、やる気満々なのではないだろうか。自分の欲求を満足させ、脳を喜ばせてあげるのは、大事なことなのだ。もちろん、欲を満たすといっても、常識の範囲を超えない程度に、である。

   「もう一杯の快楽」を求めて脳は猛烈に働きだす

欲求や本能などというと、よからぬ印象を抱く人がいるだろう。ましてや、それを満足させることが脳の刺激法であるという説には、今ひとつ納得しかねる人がいるかもしれない。

しかし、欲というのは、生きたいという願い、生命そのものである。欲がなければ、生きていけないともいえるのだ。

たとえば、性欲は動物にとって種族保存に欠かせないものだし、食欲は個体の維持に不可欠である。どちらの欲も満たされたときには最高級の快感がえられるようになっている。満たされないと困るからだ。

生命体に必要な行為をすると、脳は快感を覚えるしくみになっているのである。

断っておくが、快感を求めるのは、下半身や舌ではない。脳である。それは性欲や食欲の中枢が脳内にあることをからも明白だ。恋人の顔をみれば資格が、抱き合えば触覚がごちそうを食べれば味覚や嗅覚が刺激される。その刺激を受けて脳が至福を味合うのだ。

動物と同じように欲求のままに行動すると、人間として社会の中で大勢の人共存していくのが難しくなることがある。それをセーブするために、モラルやタブーが用意されている。だから、規範をわきまえれば、性も食も大いに謳歌すべきなのである。

    脳は「アメをなめさせながら」ムチを打て

食欲や性欲に限らず、他のさまざまな欲求も満たされることを望んでいる。たとえば、所有欲。欲しいものを手に入れ、使うことで生活が便利にらくになる。欲を満たすことで、より生きやすくなるわけだ。

名誉やステータスといった実体のないものに対する欲望も、満たせば、仕事依頼が増えるとか、自分の仕事をほかの人が積極的に手伝ってくれるといった、実質的な利点が得られる。

また、逆境に立たされた人間が想像もできない底力を発揮するのは、快適な生活を取り戻したい、もう一度幸せになりたいという非常に強い欲求が生じるからだ。

基本的に、欲求は、自分が生きるうえで役に立つものに対して抱く。毒にも薬にもならないものに、脳は興味も関心も抱かない。当然欲求もわかないし、気力も生じない。こう考えると、大げさではあるが、人間は、幸福感や喜び、満足感などの快感を求めて行動する存在する存在なのだといえるだろう。そして、これらの快感を報酬として求めて、やる気がわきあがってくるのだ。

脳の働きは、知・情・意の三本柱が基本にあり、これを三位一体のワンセットととらえて鍛える必要があることは、すでに述べた。『草枕』の冒頭で夏目漱石が書いたように、「知に働けば角が立つ情に棹させば流される」意地を通せば窮屈だ」。三つのうちのどれかに偏ってしまうと「とかくに人の世は住みにくい」。明治の文豪は、脳のしくみがまだまだ神秘のベールに包まれていた時代にあっても、すがに知・情・意三位一体の重要性を深く把握していたようである。

この漱石の時代から約100年がたった現在、実際に知・情・意を司る部分を一本の神経が貫いて走っていることが明らかにされている。専門的にはA10神経と呼ばれており、快感中枢という別名ももつ。

      A10神経が能力を格段に高める

A10神経の出発点は、脳幹の中央にある中脳だ。脳幹は脊髄が発達したもので、視床、中脳、橋(きょう)、延髄からなり(視床は含めない場合もある)、生命維持を直接担う、きわめて重要な部分である。プロレスの延髄斬りは脳幹を狙った必殺技だが、じっさい、ここが傷つくと、呼吸や血液の流れ、内臓機能に障害が出る。

この脳幹にA10神経の神経細胞がどっかと腰を下ろし、神経線維を伸ばしているのだ。そして、食欲や性欲を含めた「あれもしたい、これもしたい」欲求を生み出す視床下部のすぐ外側を通り、記憶や学習に深くかかわる海馬や側頭葉へ流れつつ、好き嫌いや怒り、恐怖など基本的な感情の制御機能を担う偏桃核につながり、欲求の実現に向けて指令を発する側座核にも連絡している。

やがて大脳新皮質へたどり着いて、思考力や創造力が刺激され、具体的にどう行動するかの指令が下されるというわけである。

77ページのの図で、知・情・意をそれぞれ受け持つをそれぞれ受け持つ部分はあるが、決して単独で働いているのではなく、相互に関連し合っていることがわかるだろう。

さらに、もう一つ見落としてはいけないことがある。A10神経が情報をやりとりする際に使う神経伝達物質が、主としてドーパミンだという事実である

ドーパミンは、脳に快感や覚醒をもたらす物質である。化学的にはアミンの化合物。覚醒剤ときわめて似通った化学構造をもつ、いわば天然の麻薬である。

刺激を受けてA10試験が活性化すると、このドーパミンが脳内に分泌されるのだ。このれが、A10真剣が活性化すると、このドーパミンが脳内に分泌されるのだ。これが、A10神経が快感中枢という別名を持つゆえんである。

ドーパミンは、A10神経以外にも神経伝達物質として使われることがわかっている。

しかも、大脳が極度に発達した動物である人間は、脳の広範囲にわたってドーパミンを分泌させているのである。人間は、地上でもっとも快感に貪欲な生物といえるかもしれない。

これで、脳は快感を求めており、人間は快感を求めて生きていく、ということが納得できたのではないだろうか。

快感は、時や場面に応じて、幸福感、喜び、うれしさ、満足感として感受される。これらを強く追い求めることは、そのまま脳を鍛えることにつながるのである。