Pocket

button-only@2x 苦手意識にも「いい仕事」をさせる後頭部思考

担う役割によって右脳と左脳とが分けられるように、脳は大きく前とうしろにも分けることができる。次ページのイラストは脳を横から見た模式図であり、ほぼ中央大脳を前後に分ける中心溝があるのがわかる。この中心溝から前半分は「情と意の座」、後ろ半分は「知能の差」と呼ばれている。

「嫌だな」と感じる脳、「どうしよう」と考える脳

うしろ半分の「知能の座」には、運動野、体性感覚野、聴覚野、視覚野などの領域があり、外界からの情報を取り入れるのが仕事である。見る、聞く、触るといった感覚の中央本部であり、五感を通して得た情報を記憶したり、記憶と照らし合わせて新しく得た情報が何であるのかを判断するのがこの部分だ。

具体的にいえば、テーブルの上の赤くて丸いものを見る、おなじようなものを過去にも見たことはないかと記憶のストックを探ってみる、そしてこれはリンゴでもあると認識する、このような作業を大脳のうしろ半分で行っているわけだ。

これからあとは、前半分の仕事である。

「情と意の座」と呼ばれる大脳の前半分は、「知能の座」で得た情報をもとに思考して反応を決定し、その決定に従った行動をするように全身に指令を出すのが役目である。これによって表情が変化したり、言葉を発したり、手足が動いたりするわけだ。

リンゴを手に取り、皮をむきはじめるとか、みんなで食べようと家族にに声をかけるといった行動を司っているのである。

もし、このときにリンゴが傷んでいるのを発見して、食べたいけれども食べられないことがわかると、ある種の悲しみを覚える。自分の欲求、目的を達成することができないからだ。逆に、みずみずしいリンゴを口に入れることができれば、ある種の喜びを体験する。

こうした感情の動きも脳の「情と意の座」が狙っている。

脳は「達成感」を栄養にして育つ

いまあげたリンゴの例はきわめて単純なものだが、こうした脳の働きはどんな人でも、どんなときでも、基本的には変わらない。

恋人に会って、表情がほころぶ。新プロジェクトをまかされ、成功した前回を思い出して段取りを立てる。心がめげたとき、先人の言葉をヒントに立ち直る。東大医学部の標本室に並ぶ優秀な頭脳も、平凡な私たちの頭脳も、脳の役割は同じである。

平凡な頭脳をすぐれたものにするには、うしろ半分の「知能の座」にさまざまな刺激を送って、経験のストックを増やすことだ。そして「情と意の座」が担う思考力や判断力を磨き、できるだけ脳が達成感や満足感を味わえるようにしてやることが重要なポイントになるのである。

たとえば、食後の果物はいつもリンゴというのではなく、たまにはトロピカルフルーツをテーブルに置くと、脳は新しい刺激を得ることができる。見慣れないオレンジ色の楕円形のものを何度か見るうち、それはマンゴーであるという知識が一つ増えることになるのだ。マンゴーに関する神経細胞のネットワークが新たに完成されるのである。

人間にいろいろな体験や刺激が大切なのは、こういう理由による。もちろん、すでに形成された神経細胞のネットワークを何度も使い、錆びつかせないことも大事である。同時にどんどん未知の分野にチャレンジして、新しい神経細胞のネットワークを増やしていくことが、脳の活性化には欠かせない。

長めの休みがとれるようなら、海外へ出て日本ではできない体験をするのもいい。

「今さら」とか「めんどうだ」「苦手」とか尻込みするのが一番いけない。

作家の三島由紀夫がボディビルを始めたのは、30歳になってからのことである。第116回芥川賞を受賞した辻仁成氏がロック歌手からの作家に転向したのも30歳のときであるし、人気脚本家の内舘牧子さんがテレビの世界デビューしたのは40歳を間近にひかえたころであったと聞いている。

仕事も同様である。配置転換を命じられて、これまでの経験や方法と異なるから不安だとくよくよするより、脳を鍛えるチャンスと受け止め、新たな体験ができることを喜ぶくらいの気概がほしい。頭は使うほどに鍛えられる。しかも成長には限りがないことを、よく噛みしめていただきたい。